半導体メーカが提供している市販デバイスのモデルパラメータを、LTspiceに追加する手順の例を示します。半導体メーカによっては、データシートにモデルパラメータを記載していたりしますが、これもテキストファイルにコピーすれば、同様にして取り込むことができます。モデルパラメータが公開されていない場合は、有料のモデルを購入するか、実測データへのフィッティングによりパラメータを推定することになりますが、半導体デバイスモデルのパラメータは、等価回路を用いたフィッティングパラメータではなく、寸法および物性に関する定数であるため、パラメータを決めるためには半導体デバイス物理の知識が必要になります。ここでは、半導体メーカが提供するモデルの例として、オンセミコンダクター社のスイッチング用n-ch MOSFET 2N70021のモデルを使用してみます。
- 電子工作で定番の2N7000とほぼ互換のデバイスですが、パッケージが異なっており、ドレイン電流の最大定格が小さめです。2N7002は、BSIM3v3モデル+熱モデルが提供されています(2N7000はUCB Level1モデルのみ)。 ↩︎
デバイスモデルファイルの取得と保管
- オンセミのホームページのメニューから、[デザイン] – [シミュレション/SPICEモデル] をクリック
- 検索ボックス(メニューの方ではなく、Search Technical Documentationのほう)で、2N7002を検索
- 2N7002 (Spice Model)をクリックすると、モデルファイルがダウンロードされる
- 2N7002 (SPICE MODEL).LIBというファイル名で保存されるので、2N7002.subにリネームする
- デバイスモデルのライブラリには、拡張子libが使用されるが、後日、モデルがサブサーキットで表されていることが分かるように、拡張子をsubとした。このモデルは、動作モデルではなく物理モデルであるが、モデリング精度を高めるため、複数の半導体デバイスを含むサブサーキットによって記述されている。
- C:\Users\<ユーザ名>\Documents\LTspiceの配下に、lib\sub と lib\sym というフォルダを作成
- C:\Users\<ユーザ名>\Documents\LTspice\lib\sub に2N7000.subを保存
- デバイスモデルファイル(.lib, .subなど)保管用に lib/sub、シンボルファイル(.asy)保管用にlib/sym を作成したが、モデルファイルとシンボルファイルを分けないで、全て lib の中に保存してもよい。
- モデルファイルとシンボルファイルは、どの回路からも参照できるように1箇所にまとめて保管するが、回路図ファイル(.asc)を設計ドキュメントとして管理または配付する場合には、モデルファイルとシンボルファイルもないと、後日、シミュレーションを再現できなくなる。このため、回路図ファイルと同じディレクトリに保存してもよい。回路図ファイル(正確にはネットリストファイル)と同じフォルダは、デフォルトで検索される。
サーチパスの設定
- ツールバーの歯車アイコン(Settingsボタン)またはメニューの[Tools] – [Settings]をクリック
- Settingsフォームで、Search Paths タブを選択
- Symbol Search Paths欄に、C:\Users\<ユーザ名>\Documents\LTspice\lib\sym をフルパスで指定(下図参照)
- Sumulation Library Search Paths欄に、C:\Users\<ユーザ名>\Documents\LTspice\lib\sub をフルパスで指定(下図参照)
- SettingsフォームのOKボタンをクリック
- LTspiceを再起動

デバイスの呼び出し
- ツールバーのメニューのComponentボタンまたはメニューの[Edit] – [Component] でnmosを選択して、回路図シートに配置
- MOSFETのシンボルを、CTRL + 右クリックし、Component Attribute Editorで Prefix = X, Value = F2N7002 を入力
- Prefix = X はサブサーキットを表す。nmosシンボルは、デフォルトでMNとなっているので、サブサーキット用に変更。
- Value は、モデルファイル(テキストファイル)の内容を確認して、記載されているデバイス名(.SUBCKTの後の名前)を指定する。
- ここでは、サブサーキット(.SUBCKTにより記述されている)モデルを使用しましたが、単体のデバイスモデル(.MODELにより記述されている)モデルの場合は、Prefixを変更しないでください。
- [参考] サブサーキットを呼び出すためにシンボルが必要。新たにシンボルを作成してもよいが、面倒なので、ここでは、LTspiceに付属のシンボルを流用した。メーカから提供されているモデルファイルは、モデルを精密化するため、複数の素子を含むサブサーキットとなっていることが多い。サブサーキットを呼び出すため、既存シンボルで Prifix = X に変更するか、シンボルを自分で作る。

- SPICE Directiveボタン(.tボタン)をクリックし、.lib 2N7002.sub (デバイス名ではなく、保存したファイル名)を入力

- Edit Text on the SchematicフォームのOKボタンをクリックして、.lib命令を回路図上に配置
- .lib 命令は、.SUBCKT(マクロモデル)や.MODEL(デバイスパラメータ)を複数集めたライブラリから、回路図に指定されたものだけを呼び出してインクルードする命令。
- 複数のファイルを指定する必要がある場合は、.libを複数書いてもよい。
- .lib 命令では、ネットワーク上のファイルをURLで指定することもできる。
2N7002モデルの使用例は、「サーマルモデルの使用例」に投稿しました。ご参考まで。